「日本語が亡びるとき」の感想メモ

自分向けのメモ。

感想

良い小説だが拙い論考という感想。

1〜3章は小説として楽しめた。著者がさまざまな国の物書きと出会い、日本文学を再発見していくくだりだ。
6章くらいまでは興味深く読めた。いかに日本の小説が稀有な存在となったかを説明するくだりだ。
だが、最後の7章は読むのをやめた。この章は、これからの日本で英語、日本語の教育について著者が提言する核心部分なのだが、読む価値があるように思えなかったためだ。

説得力のなさ

その理由は現状認識の不正確さにある。著者は最近の国内情勢に疎く、正しい認識を持っているように見えないからだ。

代表的なのは下記の2点。

  1. 最近のネット利用動向
    • 記述から、最近のネットについて知識がないのは明らか。
  2. 最近の日本国内の情勢
    • 日本国内でも多くの職場で、既に英語は避けて通れないものになっており、それゆえ日本人の意識と行動も確実に変わっている。だが、著者はそうした現状を認識していない。

また、最近の日本文学についての記述にも理解できない部分があった。
近代の日本文学に価値がないと切って捨てているのだが、これについての明確な説明がなされていない点だ。

本の中では、たびたび「近代の日本文学は全て大衆的、通俗的である」という指摘がでてくる。
もし、"大衆的、通俗的なものに、価値のあるものは存在し得ない。そんなことはわざわざ文章に起こすまでもない常識である"と著者が考えているのであれば、一応、納得はできる。
もちろん著者の考える常識に対して、納得できるかどうかは別になるが。

結論

最近の日本国内の情勢を知らない著者が、彼女の知っている昭和の日本を思い浮かべながら思いのたけを綴った本という印象。

小説としてはこころを打つものがあった。機会があれば、著者の書いた他の小説も読んでみたい。そう思わせる一冊ではあった。
だが、論考としては拙い。

明日の英語・日本語のあり方を模索する際には、あまり参考にならない。